JA紀南広報誌

2017年1月号p04-01

2017年1月号もくじ

特 集2017新春座談会  

認定農業者が語る地域農業振興とJAの役割発揮  

 農業・農協改革がマスコミ等で日々、報じられていますが、もとよりJAグループは自らの「JA自己改革」を掲げて取り組んでいます。協同組合の本質が否定されかねないうねりが押し寄せる中、本誌では、地域の認定農業者(元含む)にお集まりいただき、「地域農業振興とJAの役割発揮」について存分に語り合っていただきました。

泉雅晴さんの木熟みかん園で(田辺市上秋津)

座談会出席者(敬称略・順不同)

○ 船本 幸雄さん
  田辺市上芳養(上芳養支所管内)
○ 泉  雅晴さん
  田辺市上秋津(上秋津支所管内)
○ 脇田 義朗さん
  上富田町岡(口熊野支所管内)
○ 小阪孝太郎さん
  白浜町大(日置支所管内)
【 座 長 】
本田 勉(JA紀南 組合長)

自己紹介と農業の概況  

座長(本田組合長) 明けましておめでとうございます。本日は田辺、富田川、大辺路各ブロックの認定農業者の皆さんにお集まりいただきました。地域農業の振興と、JAの役割発揮に向けて、忌憚ないご意見を賜りたいと思いますので、よろしくお願いします。
一同 よろしくお願いします。
座長 自己紹介を兼ね、皆さんの農業の概況をお聞かせください。
船本幸雄 私と妻、次女と息子(次女の夫)の4人で農業を営んでいる。経営は梅4㌶、ミカン1・5㌶の計5・5㌶だ。平成28年に娘夫婦に経営移譲したばかりだ。
 私のモットーは、「農の原点は農地」ということだ。コストを低減でき、楽で働きやすい園地をと、上芳養で昭和56年から3回に分けて約40㌶の園地造成に関わった。いま、その成果が出ており、これが次世代の戦力になると思う。
泉雅晴 私はミカンと梅の複合経営で面積は2・5㌶だ。父がミカンに力を入れていたが、受け継いだ時、老木が多かったので改植を進めてきた。梅は高尾山の園地が梅生育障害で枯れたため、今は借地で作っている。農業は妻と母との3人で、子ども2人はすでに就職して勤めているので、後継とかの話は今はない。
脇田義朗 私は梅2㌶とミカンが80㌃の計2・8㌶だ。ミカンは極早生60㌃と早生20㌃だ。収穫期は親の手伝いや雇用を入れるが通常は妻と2人で回している。
 うちも息子は2人とも就職しており、「勤めをやめて農業を」とまでは言いにくい。だが、いつか農業をしたいと言った時、引き継げるよう農地は守ろうと思う。
小阪孝太郎 進学し名古屋で働いていたが、父が脳梗塞で倒れ20年前にUターンした。当時は水稲、ハッサク、ダイコンや一部林業もあったが、「何で食おうか」と考えた時、「せっかく地域に梅産業があるのだから、梅だ」と決めた。すべて梅に改植し今の面積は1㌶だ。
 梅はJAへの青梅出荷と、自家漬けした梅干しを、道の駅や通販、個人客に販売している。平成28年から3人いる息子の長男が帰って来て、家業を手伝ってくれている。梅は皆さんからすれば少ないが、広げると加工・販売に手が回らないので、面積より中身をと、品質を落とさない経営をめざしている。

農業経営での課題  

座長 次に皆さんの農業の課題はなんでしょうか。
船本 「きちっとした形で農業を次に譲りたい」と思ってやってきたし、その目標は達成できた。現状で辛いのは農産物の単価の問題だ。楽に儲けたいとはいわないが、再生産価格は確保したい。
 私は10年前から若者を一人、常雇いし、結婚して来てくれた息子も7年目になる。うちの面積はおよそ2軒分と言える5・5㌶あるが、それを1・5倍の効率でやるという考え方をしている。資金はいるが、機械を使える農地整備を進めてきた。一方、園地の若返りのため、毎年20㌃の改植を行って来た。
 耕作放棄地の増加が大問題だ。周辺も畑や農道などの整備に多くの労力を裂かれるし、イノシシなどの害獣の巣にもなる。
 温暖化や豪雨、多雨など近年の気象変動の激しさも、高品質のミカン作りの障害になっている。先ごろ、「木熟201グループ」で上芳養石神の園地を見たが、標高300㍍で非常に品質の良いミカンを作っていた。適地が変わってきたのか、うちでも早生の「宮川」がだんだん作りにくくなってきた。
脇田 私は自分でしなければ気が済まないタイプで、船本さんの経営感覚は「目から鱗」だ。私は高校を出て3年間勤めた後、父の土建業を手伝うようになった。農業は母中心で1・2㌶だったが、農業の方が性に合っていると思い35歳の時から農業1本にした。
 借りていた畑を購入して規模拡大したが、梅もミカンも樹齢が古かったので、若返り更新を進めている。自分の代のうちに若い畑にすることが今の課題だ。
座長 良い状態で後継者に譲りたい。園地の若返りも。共通の思いですね。小阪さんはいかがですか。
小阪 私の経営は梅1本。加工・販売もしているので、課題は人手の確保だ。木が若いうちはうまく回っていたが、だんだんと収穫に追われ、バランスがとれなくなってきている。雇いたいが人がいない。園地も増やしたいが労力が悩みどころだ。

農業振興・再生計画  

座長 JAは今年度、第2次の「農業振興・再生計画」を策定中で、多くの方の意見を反映したいと思っています。主眼は、「果樹を基幹とした総合園芸産地づくり」「ブランド力の強化」「生産資材のコスト低減」ですが、先ほどから出た鳥獣害や耕作放棄地対策も含めご意見をいただきたいと思います。
船本 紀南は梅を軸に総合園芸産地化を進めてきたし、特に「南高梅」のブランド力はすごい。11月に東京に行き、秋篠宮文仁親王殿下にお会いしたが、殿下も「南高梅」や梅が健康食品であることをご存知であった。
座長 実は船本さんは、秋篠宮殿下が総裁に就かれる公益社団法人の大日本農会の「28年度農事功績者表彰」を受賞されました。
船本 表彰式には全国から約60人が集まったが、「南高梅」を知らない人はいない。全国に誇れるブランド力があり、その生産を支えるJAも日本一だ。生産量と品質面は農家の努力で何とかするから、農家の手が届かない価格面はJAが一層力を入れ、もう一段のステップアップをめざしてほしい。一方のミカンも和歌山が日本一だと感じて東京から帰って来た。
座長 梅もミカンも和歌山は日本一。ミカンは有田が筆頭ですが、紀南も味の評価が高い。先日、一般紙の田辺駐在記者から、「紀南の木熟みかんを東京に送ったら、すごい評判で、東京の人のミカンに対する意識が変わった」と聞きました。紀南ミカンファンの拡大の余地はあるでしょう。
脇田 だいたい都会の人は、ミカンは静岡、愛媛だと感じている。和歌山なら有田と…。だが紀南も評価の高い木熟が牽引して、全体の底上げを図りたいところだ。

問題の鳥獣害対策  

座長 鳥獣害問題はどうですか。
 増えるばかりだ。放棄地が害獣の寝床になっている。ワイヤーメッシュで囲うなどの防護だけでは追いつかず、農家も捕獲に乗り出さないといけないのかも。
脇田 年々被害が町の方に近づいて来ている。ミカン畑は必ず囲わんなんし、梅へのシカやウサギの害もやっかいだ。獣害で植えた苗が育たないような状況だ。
小阪 私の住む所は鳥獣害では先進地だ。当時は私たちと役場とでは危機感に温度差があったが、ここに来て「大変なことだ」との認識が一致してきた。そんなとき役場に頼む手もあるが、やはり農家の組織であるJAが前に出てほしい。JAが被害を把握し、個体数管理をするなどし、今より一歩二歩進まないと状況は改善しない。害獣を攻める目線が必要だ。
座長 狩猟免許をとって捕獲する、後の処理をどうするかなど、農家とJAが行政の協力を得ながら解決策を探りたいと考えます。

農業のコスト低減は  

座長 農業のコスト低減対策についてはいかがですか。
船本 政府は声高らかだが、コスト低減の手段は肥料・農薬の価格下げだけではない。基盤整備や反収、秀品率を上げる努力との両面で考えないとダメだ。いくら安くても粗悪では農家のためにならない。JAの予約購買に参加することだって大きなコスト低減策だ。
座長 JAの購買部門には、質の良いものから安価なものまで選択肢を揃えよと指示しています。政府の言う資材価格下げや全農改革は最終的には農協組織の解体が狙い。資材価格も全農改革だけでは解決しないと思います。
 JAの購買品の扱いを拠点化してホームセンターのようにし、職員を極力置かない手もあるが、利便性を欠いて安いことだけで組合員は喜ぶとは言えない。
座長 私も支所や施設と職員を減らして、利便性を損ない、組合員が納得してくれるとは思えません。政府の進め方は単純な発想で、協同組合の良さを否定しています。
脇田 JAの事業計画にあるように、営農指導員も購買担当も、出向く体制をもっと充実してほしい。地域に入り農家の膝元まで来て話をしてもらうことが大切だ。
座長 肥料の銘柄の多さも、元々は生産にこだわった産地間競争から生まれたもの。価格だけでなく、利便性や営農指導など地元密着のJAであればこその性質も政府には分かってほしいものです。

担い手確保のために  

座長 担い手確保のための対策はいかがお考えでしょうか。
船本 担い手は、農家子弟や法人などいろいろあるが、最終的には、地域の農地を荒らすこと無く守りたい。農地の貸し借りでも、農地利用調整や中間管理事業でJAはよく動いてくれている。地域を知るJAならこそできることだ。国は大規模農家に集積と言うが、日本は家族農業が無ければ成り立たない。
座長 後継者がいないという人の受け皿づくりも大切ですね。
船本 果樹は1年放任すると畑がダメになる。急傾斜の畑は借り手がつかない。その面で果樹産地の農地流動化は難しさがある。
 後継者を確保するにはまず経営安定、筆頭は販売価格の安定だ。
座長 担い手対策として、JAも「農業経営事業」をしていますが、今は水稲や野菜栽培です。私は指導部に、畑を借りての果樹栽培を提案しています。高品質・安定栽培を実証し、あわせてそれが担い手研修用のトレーニングファームに発展すればと考えています。
船本 国の青年就農給付金制度も成果があるだろうが、農家子弟の後継者を育てる支援策が大事だ。
座長 国の制度は親元での就農は適用されません。一方で、JAグループ和歌山は、平成28年度からの3年間、農家の農業所得向上等に向けた営農活動支援策を打ち出しています。パイプハウス設置の支援や、親元での新規就農支援もあるので、JAに問い合わせてほしいと思います。

指導と連携、販売強化  

座長 再生産価格の確保のための販売強化の意見がありますが、販売事業で重視すべきことは。
船本 農産物も過去と比べて流通が随分変わった。スーパーや量販店が幅をきかせ、小売価格から決まって、それぞれ流通マージンをとり、最後に相対取引で市場価格が形成される。最終的に農家にしわ寄せが来ている構造を変えない限り農家の手取り価格は好転しない。JAも多様な販売方法を展開すべきだ。
座長 JAでは新しい販売方法として、関西圏だけで150店舗を展開するライフコーポレーションに紀菜柑を拠点に野菜やかんきつ類を販売し、それが伸びています。
 ミカンでも農家は良い物を作る使命を感じてがんばっているので、価格に反映してほしい。
船本 梅干しタルなどでは、ぜひともJAが価格設定の先導的役割を果たしてほしいところだ。
座長 JAが扱う梅干しタルの流通は年間約20万タルだが、プライスリーダーは無理としても、買取価格の設定では他社に負けないようがんばっていると思います。
船本 農産物を売るという面で、JAには、いま以上に農家に足を運んでほしい。畑や倉庫に来られると、出荷しない訳にはいかない。
座長 その通りです。加えて販売は指導と一体的に動くことが大切です。販売から市場や消費地の情報を指導に流し、指導は営農指導を徹底するということです。購買も連携しなければなりません。
脇田 上富田の場合、選果場の販売と営農室の指導はうまく連携している。農家のことを一番分かっているのは営農指導員であり、平成27年産のミカンで腐敗果が増えた時も、情報を伝達してすぐに現場対策に生かしてくれた。
 ミカンだと1選果場になって、元の選果場は集荷場になっているので、なおさら職員が現場に出ることは大切だ。
座長 個人販売も取り入れている小阪さんはどうですか。
小阪 良い物と安い物の2極化が進んでいるとは言え、個人の直売でも、消費者が良い物を欲しがっていると感じるし、その期待に応えようと心がけている。農産物の品質を下げないよう肥料も安さだけを求めてはいない。商品が多少高くても、良い物を作れば買っていただけるという考え方だ。
座長 個人販売なら買い手の声も直接入るでしょうね。
 それは直売所の紀菜柑でも同じで、直接の声を聞けるのは励みになる。大事なのは共販でも直売でも、口に入れた消費者の顔を想像できるかどうかだ。
座長 販売や流通方法が変わっても、基本はそこでしょうね。

「農協改革 」とJA  

座長 平成28年4月に改正農協法が施行され、その後も「農協改革」でJAに理不尽な要求が突きつけられていますが、このことで思うことはありますか。
船本 不透明な農協改革でJAの立ち位置がどうなるか農家は不安だ。ただ、JA紀南も組合員と一緒になって新しい施策を打ち出す改革の時期だとも言える。
座長 古い体質を引きずったままでなく、JAも自らの改革は必要です。また、政府は農協改革でJAに対して「JAは農家のためにだけ働けばいい」と言いますが、私はそうでないと思います。もちろん農業振興はJAのすべき“いの一番”として努力しますが、地域の皆さんの支持を得ながら、地域にも貢献しなければと思うのです。
船本 JAは地域の人の生活を守る使命がある。経済事業とともに金融も共済事業もそれぞれ必要で、事によっては採算が合わなくてもすべきこともある。
 総合事業であるJAでは、指導も含む経済事業を他部門が助けてくれている面がある。政府の言うように、信共分離ともなればJAの存続は難しいし、組合員のためにならないだろう。
脇田 長い歴史のあるJAは、地域の皆にとって無くてはならないものになっている。地域の生活を支える機能は維持すべきだ。
小阪 11月に始まった移動スーパーもJAならこそできることだ。地域を守っていかないと、若い人のUターンやIターンの受け皿にもなり得ない。JAはそんな考え方で事業活動を進めてほしい。
座長 JAがめざすのはそこです。一方、総合事業でのJAは、各事業が部門収支で赤字が続くと行政検査や公認会計士等、外部監査で指摘が入るようになっています。ですから総合事業の利点を生かしつつも、各部門の健全な収支にも努めなければならず、そこは皆さんに知恵を拝借し、ご理解を得なければならないでしょう。
船本 JAに対して、なぜ、よその人にそこまで言われなければならないのか…。
座長 農協法改正によるものですが、言えるのは、JAの経営をしっかりしなければ皆さんにご迷惑をお掛けしますので、組合員とJAが一体に今後も取り組みます。

新年も健康第一で  

座長 最後に皆さんの平成29年の抱負をお聞かせください。
船本 計画通り経営を次の世代に任すことができたので、私ら夫婦は新年もサポート役としてがんばって働きたい。
 今期就任した生販連協の委員長の責任も強く感じているので、とにかく体を壊さないようにする。一生の課題である美味しいミカン作りも一層がんばりたい。
脇田 体が資本だから新年も妻と健康第一でいく。先はわからないが引き継げる農業へ、私らの代でできることをしたい。
小阪 元気で生き生き、「山奥の農村でがんばっているわ」と言われる農家をめざしてがんばりたい。
座長 皆さん、新年も健康第一で、楽しい気持ちで農業ができることをお祈りいたします。本日はありがとうございました。
一同 ありがとうございました。(文責は編集部)

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