JA紀南広報誌

2015年2月号p05-01

2015年2月号もくじ

きずな 組合長 本田 勉  

宮沢賢治「よだかの星」から  

 農協改革について考えているうちに、昔読んだ宮沢賢治の「よだかの星」という童話をふと思い出し、今度の「きずな」はこれを書こうと密かに準備していました。そんな矢先、「農中総研情報9月号」の冊子が届いたのですが、何と目次に古谷社長の名で「よだかの星」とあるではないですか。
 びっくり仰天して中身を読むと、私が感じていたことがそのままというより、さらに上をいく内容と立派な文章で見事に表現されています。私と同じ感じ方、考え方をされる方がいたことに二度大変びっくりしたのです。しかし、自分の構想を眠らせてしまうのも癪(しゃく)なので、あえて「きずな」に書くことに挑戦しました。
 宮沢賢治の本を読んでご承知の方も多くおられることと思いますが、簡単に「よだかの星」の中身を紹介します。
 「よだか」とは漢字で「夜鷹」と書きます。「鷹」と名は付いているものの、夜鷹は鷹には似ても似つかず不細工で、夜間に虫などを捕らえて食べる夜行性の鳥です。川蝉(かわせみ)の仲間ですが、飛ぶ姿は鷹に大変似て、鳴き声も鷹そのものです。ですから本物の鷹はそのことが面白くありません。
 ある時、鷹は夜鷹に改名を迫ります。そして「鳥たちの仲間に改名のあいさつをして廻れ、言うことを聞かないと殺すぞ」と脅したのです。夜鷹は森で一番強い鷹に殺すと脅されて嘆き悲しみます。そして、空に浮かぶ太陽や月、星を巡って自分を太陽や星にしてくれるように頼むのですが、誰も相手にはしてくれません。
 改名の期限が近づいた夜鷹は弟の川蝉を訪れ、「兄ちゃんは遠い所へ行くから、お前とも、もう会えない。お前も必要以上にお魚を捕って食べないように」と言い残して飛び立ちます。夜鷹は高く、さらに高く昇って、最後は星になるという童話です。
 どうです? 今回の農協改革にどこか似ていませんか?
 森に君臨する鷹が力にものを言わせ、夜鷹に理不尽な要求を突き付け、従わなければ殺すぞと脅す。しかし、森の生態系は鷹だけで守られている訳でないことを鷹は知らない。生態系が壊れた森はやがて崩壊する運命なのに。夜鷹はそれを知っているから、弟の川蝉に「魚を捕りすぎるな」と警告して死んで星となったのです。
 しかし、私たち農協は夜鷹のように死んで星になる訳にはいきません。地方にあって、農業や地域の多様性を守りながら共生の道を探りたい。企業ではそれはできない。それは農協の役目で協同組合にしかできないことなのです。
 鷹にそれを説きながら、地域では今後の農協のあるべき姿について充分な協議が必要です。「よだかの星」でさらにその思いを強くしたのであります。

戦中戦後の飢餓時代に想う  

 戦中、戦後、日本は飢餓の時代を経験しました。戦中は「欲しがりません、勝つまでは」の標語のもと、耐乏生活を強いられ、戦後は海外からの帰還兵や民間の引揚者で人口が膨れ上がり、政府は食糧調達に苦心の末、食糧管理法を制定し食糧の配給制を布きました。そして緊急勅令第86号を発令し農家に強権的に米を供出させました。なぜならヤミ米の横行で安い政府米はなかなか集荷できなかったからです。
 1人当たり1000㌔カロリー程度という命をつなぐために最低限必要な食料の確保さえままならない状態が続き、全国で大勢の餓死者を出した悲惨な時代です。
 こうした飢餓の時代、ヤミ米を断固拒否し配給食糧のみを食べ続け、栄養失調で死亡した裁判官がいたことをご存じでしょうか?
 佐賀県出身で東京民事地方裁判所の山口良忠判事がその人です。山口判事は、食糧管理法違反事案を担当したことから、取り締まる側がヤミ米を食べるわけにはいかないと、配給だけで生活をしたそうです。
 少ない配給は2人の子どもに与え、妻と2人で汁だけの粥などを啜って過ごしました。そして1947年、栄養失調にともなう肺浸潤で弱冠33歳の命を散らしたのです。日記にはソクラテスを例に引き「悪法であっても法は守らねばならない」とあったそうです。
 またこれは、私が小学校低学年の頃、聞いた話ですが、子ども3人でつましく暮らす家庭があったそうです。ある日、米びつが空になり、食べるものがなく途方に暮れた姉が、道端に置いてあった肉団子を見つけ、自分もお腹が空いて倒れそうだったのに幼い弟2人に団子汁にして与えました。
 2人は大層喜び「美味しい、美味しい」と全部平らげました。ところが肉団子が野犬駆除の毒入りだったため、弟たちは苦しんだ挙句死んでしまいました。姉は自分の運命を呪って半狂乱となったそうですが、後日談は知りません。
 皆さんにお伝えしたかったのは、現在の繁栄からわずか半世紀前の日本を思い返していただきたいという私の想いです。

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