JA紀南広報誌

2015年11月号p03-01

2015年11月号もくじ

農を耕し、地域を起こす『農人』【No.28】  

中辺路町温川  松窪 俊英  さん

中辺路町温川
松窪 俊英 さん

 過疎化、高齢化が叫ばれて久しいが、農村維持の度合いのバロメーターは景観かもしれない。山あいに織りなす棚田を守り、自然環境を生かした安全・安心な米としてブランド化した「霧の精」を生産する松窪俊英さんを訪ねた。

新米を炊いた時の香りは格別
特別栽培米「霧の精」に注力  

 松窪さんは、高校を出て県外に就職、地元に帰って山仕事に従事していたが、その後、地元にできた籐敷物工場に30年間勤め、退職して3年目になる。勤め時代も兼業として農業を守ってきた。
 現在は借地を含む1・1㌶の水稲を中心にエダマメなども作る。中山間地域で、水田はすべてが棚田(山田)だ。広い所で10㌃、小さければ1㌃の水田もあり、場所は30カ所以上に及ぶ。そのため田植えや、稲刈り、防除、水管理まで、すべてに手間が掛かるが、ひたすら耕作し農地を守り続ける。
 そんな松窪さんが今、最も注力しているのは、なかへち地区で生まれたブランド米の「霧の精」だ。自身は取り組んで3年目で、毎年25㌃で作る。品種はキヌヒカリ。今年も9月に稲刈りを終えた。
 「霧の精」は、なかへちの農家がJA合併前の平成13年に始めた米栽培だ。山間部のきれいな水と寒暖差の大きい気候など、豊かな自然環境を生かしている。
 肥料は原則有機肥料で、農薬使用は慣行の半分以下に制限した特別栽培として県の認証を受けている。14年には商標登録も済ませ、地元消費中心のブランド米としての地位を築いている。現在12人が約3㌶で栽培し、松窪さんはグループの会長を務めている。
 「近年の全国的な米相場はひどいものだ。生産者としても叩き売りはしたくないのは当然」と松窪さんは言い、中山間地域でも太刀打ちできるよう、栽培にこだわった「霧の精」に期待している。
 その品質についても「水くさくなく、コクがあり、艶が違う。新米を炊いた時の香りも格別だ」と胸を張っている。
 ただ、「霧の精」は有機肥料中心であるため、収量は地域の慣行栽培の平均である1反8~9俵(480~540㌔)を1、2割程度下回る。その分、安全・安心、美味な米として、付加価値を付けた価格帯で販売したいという。米の等級も1、2等級に限定。なるかけによる天日乾燥の場合は30㌔で500円高に設定している。
 一方、「ここ3年ほどで地域の不耕作地が目立ってきた」と松窪さんは心配する。過疎化、高齢化の要因もあるが、加えてイノシシ、シカ、サルなどの鳥獣被害も農業存続においての深刻な問題となっている。その対策として、行政の補助を受け、農地の周囲約3㌔を丸ごとワイヤーメッシュ(防護柵)で囲む事業も実施された。
 「農業も地域も皆で守らねば」との思いが松窪さんはひときわ強い。温川地区の住民は現在約45戸だ。中にはIターン移住者もあれば、この地に出作に来ている若者もいる。松窪さんは「形はどうであれ、ここで農業をしてくれるのは良いこと。若い人が来て、荒れかけた農地を耕作してくれるのは地域としてありがたく、心強い。率先協力したい」と話す。
 松窪さんは地元の区長も務めている。今年は台風や大雨で大きな被害が無いことに胸をなで下ろす。9月の敬老会も無事終えた。元気の秘訣という「自家製のニンニクパワー」を全開にし、農業と地域の維持、活性化に情熱を燃やしている。 (文・写真=山本和久)

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional