JA紀南広報誌

2014年8月号p03-01

2014年8月号もくじ

農を耕し、地域を起こす農人【No.14】  

後継者の根付く地域農業に
園地造成で優良農地を確保  

田辺市上芳養(上芳養支所管内)
船本 幸雄 さん(62)

 今年5月、田辺市農業委員会と会長である船本幸雄さんが2014年度「農林水産大臣表彰」を受けた。“農の原点は農地”と信じ、パイロット事業による優良農地の確保に奔走。後継者に自信を持って託せる農業をめざした。

 高校を出て大阪で働いていた船本幸雄さんが帰郷して就農したのは22歳のとき、温州ミカンの全国生産量が300万㌧を超え価格低迷していた昭和50年だった。
 就農時の農業は、早出し(青切り)主体の温州ミカンを中心に晩柑、梅、水稲の2・1㌶だった。急傾斜地が多く、農道も狭いなど栽培管理や農作業の不便さを痛感。「これは何とかせな。極力フラットで働きやすい畑にしたい」と、昭和53年に経営移譲を受けたのを機に経営改善へと動き始めた。
 その手法として、パイロット事業(農地開発事業)による優良農地の確保に目を向けた。昭和54年、大段地区に5・1㌶(入植者13人)の農地が造成され、続く平成2年には鎌谷地区に15・9㌶(39人)が完成した。船本さんは事業推進の中心的役割を果たすとともに、自身も90㌃の作業効率の良い緩傾斜の農地を確保した。
 さらに平成22年には、日向地区に20㌶規模(15人)の開発農地が完成し、船本さんも持ち分の1・5㌶すべてに梅を植えた。
 上芳養では他地区でもパイロット事業が進み、30年間の造成面積は約100㌶に及ぶ。船本さんは「中山間地で条件不利地が多いという悩みを抱えた仲間たちと、農地造成に取り組んだことで、地区全体に基盤整備の気運が高まったことが大きかった。造成した効率の良い農地は、地域の貴重な戦力になっている」と実感している。
 現在の経営は、梅が借地を含む3・9㌶、温州ミカン1・3㌶、晩柑20㌃の計5・4㌶。就農時から増やした約3・3㌶のうち造成農地が2・4㌶を占め、すべてが「南高」を主とした梅園だ。
 この面積を妻の秀代さん、娘夫婦の保さん・千秋さん、常時・臨時の雇用で切り回さなければならず、そのために家族の信頼・連携を非常に重視する。18年前からは「家族経営協定」を締結しており、給料、休日、労働時間、梅・ミカンの作業や会計・税務、育児といった役割分担を決めている。
 船本さんは家族協定が農業経営に及ぼす効果を認め、「世代ごとに違った生活がある中、時間内にキチッと仕事をする、休むときは気兼ねなく休む、報酬はもらう、雇用のためには年間の作業配分も考えるようになった」と話す。
 就農して40年、船本さんがめざした農業はほぼ完成形だと言い、65歳での経営移譲も決めた。「農業をキチッとした形で次世代に譲る、それを目標にずっとやってきたので、喜びを感じる。ただ、今しばらくは全力投球だ」と語る。
 田辺市の農業委員も30年間務め、会長は3期・10年目だ。農林水産大臣表彰受賞については、「農地の確保や農地流動化のための農業委員会一丸となっての取り組みが評価されたのだと思う。個人の受賞もうれしいが、野球で言えば農業委員会のチームが優勝できたのが一番だ」と話している。
 今年7月には農業委員と会長の職を降りるが、船本さんの表情には、自身の梅・ミカン複合経営を確立しつつ、優良農地確保を軸に後継者の根付く農業改善に精一杯取り組んだという充足感がにじみ出ている。(文・写真=山本和久)

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