JA紀南広報誌

2006年1月号p08-01

2006年1月号もくじ

梅産業をめぐる環境変化と産地対応  

大阪府立大学 大学院専任講師・博士(農学) 藤田 武弘
1国内外の梅生産動向と特徴

(1)県内産地の最近の動向

 一般に梅は自給作物としての性格が強いが、和歌山県では地元加工業者と結合しながら、いち早く商品化が進められた。さらに多収性品種の「南高」の選抜に成功し普及・拡大してきた。その結果、全国における和歌山県の梅農業の位置(2000年産)は、栽培面積4660㌶、収穫量6万6800㌧で、それぞれ全国の24・5%、55・1%のシェアを占める。
 中でも主産地の田辺・みなべを擁する日高・西牟婁地域に県内栽培面積の87%、収穫量の95%が集中している。だがこれは梅の需給をめぐる環境変化の余波も最も大きく受けることを意味する。
 近年、青梅・白干梅の価格が低迷する中、産地では過剰への危機意識や梅に代わる品目を模索しようとする動きもある。
 しかし、その一方で、成園での収量安定には樹齢更新のための予備地が不可欠であり、優良園地を求めてパイロットへの入植や隣接町村への出作を進めてきた梅専作型経営では、今後も総じて増産(規模拡大)志向が強い。
 広域合併で誕生した新生JA(JAみなべいなみ、JA紀南)のいずれも、梅が生産販売の基幹作目だが、青梅販売では生果の数量確保が容易になるというメリットがある一方、品質面での平準化が困難であるという問題や、共販体制の違い(個選か共選か)に基づく品揃え・数量調整機能の強弱によって主産地JA間の力関係に変化が生じている。
 今後、生産者の経営事情に即した販路確保と梅価格の安定化に貢献してきた加工事業(ブローカー機能含む)をいかに拡充するか、JAの主導力発揮が問われる局面を迎えている。

(2)国内他産地の動向

 元来、梅は全国各地に在来品種が多様に存在するが、近年の地産地消ブームを背景として、地元産の梅を見直そうとする気運が高まり、農産物直売所での販売等により一定の需要が喚起された。
 その結果、青梅・白干梅ともに小売末端で需要獲得をめぐる競合関係が強まっている。
 「南高」は、全国の梅栽培面積の約25%のシェアを占めるが、和歌山県を除く鹿児島県、愛媛県などでは、元来和歌山県内の梅加工業者が産地開発(生産指導し一次加工品の販路は自ら確保)したという経緯がある。
 しかも、それら後発産地は、販路が確約されているという安心感を背景に梅生産に対する技術向上意欲が高く、品質平準化に対する取り組みがスムースに進展するなどが評価され、実需者サイドからは「値頃感」のある国産原料としてその存在感を強めている。
 特に「原料原産地表示」義務化以降は、国産一般ではなく地元産原料使用を明示し差別化を図りたい和歌山県漬物協同組合連合会の意向を反映した業界自主基準が制定されたが、県外では「さつまの梅」など原料産地ブランドでの販売を志向する動きや他業種から梅干し製造への新規参入もみられた。 その結果、梅を基軸とする「地域産業複合体(農・工・商・観光業等が相互に連携して地域活性化に重要な役割を果たすもの)」の将来への影響も危惧されている。

(3)海外産地(中国)の動向

 いま、海外からの輸入原料梅(ほとんど中国産)は、その数量・価格・品質ともに和歌山県産地にとって大きな脅威である。
 しかし、振り返れば、かつて実需者向けに「値頃感」が求められた梅干し需要を逃すことなく、輸入原料梅(台湾産)の加工適性を利用した新たな商品開発(かつお梅など)により消費の裾野を拡大したことが結果的に紀州ブランドの定着に貢献したともいえる。
 実際に梅加工業者の多くは、量販・実需者向け商品には主として輸入原料を、通販・贈答品向け商品には国産(地元)原料を充当しながらそれぞれの販売チャネルを構築している。
 中国産原料の輸入開始当初は、一次加工品の日本への輸出実績を背景に中国本土に進出した台湾系加工業者からの輸入が中心であったが、いまや工場数・取扱量ともに中国系加工業者が圧倒しつつある。
 ここで重要なのは、価格競争力に勝る中国系加工業者がディスカウント販売により市場を席捲したことで、供給過剰による原料価格(現地工場着価格)の著しい低落が起こっていることである。
 その結果、中国の主産地では園地管理を粗放化する動きや新植の停滞などの現象がみられるが、その一方で原料原産地表示義務化以降に中国での完成品製造に着手した梅加工業者などでは、園地管理の徹底や仕入方式の見直し、トレーサビリティの導入などによって安全性による原料差別化を図ろうとする動きもみられるなど、産地は「二極化」の様相を呈している。

②表示・ブランドをめぐる新たな
動きとマーケットのこれから

(1)「原料原産地表示」義務とその後

 2001年から梅干しに義務づけられた「原料原産地表示」は、消費者に適切な商品選択の機会を供することを目的に導入された制度とはいえ、世界にも類例のないものである。食品の安全性への関心の高まりを背景として、食品産業の原料調達行動が国産回帰志向をみせる中、生産者サイドではこれを〝追い風〟として受け止める傾向が強かった。
 一方、加工業者サイドでは、量販・業務需要への販売チャネルをもつ大手企業を中心に、「原産地=加工地」という慣例のもと、紀州ブランドの優位性を活用しながら輸入原料の取り扱いを進めてきた従来方針の見直しが迫られた。
 「原料原産地表示」義務その後の加工業者の原料調達パターンは次の3つに分かれる。
 ①輸入重視型……輸入原料の自社直輸入比率が高く、すでに中国現地工場での完成品製造に着手した企業が多い。
 ②国産・輸入併用型……量販・実需者向けと通販・贈答品向けの双方の販売チャネルをもつ大手企業に多く、前者には輸入原料(商社経由によりリスク回避)、後者には国産原料(紀州南高梅)を充当するなど原料の差別化を徹底している。
 ③国産重視型……通販・贈答品を主体とする販売チャネルと国産(地元産)原料使用や生産方法にこだわりをもつ一部の大手企業、あるいは地元生産者が加工販売事業に参入した家族経営規模の零細企業が多い。
 表示については、容器裏面の一括表示が「和歌山県産(紀州産)」「国産」「中国産」等の混在をみせる一方で、表面の強調表示についても「紀州こだわり加工」等の加工地イメージを冠したPRが表記されるなど、消費者に誤解を与えかねないような混乱が生じている。
 昨今、特産野菜を原料とする個性的な地域特産品に注目が集まり、ブランド認証による生産振興などの行政支援も拡がりつつある。
 そのようなもとで、各メーカーも従来漬物業界の常識とされてきた「地域特産」に対する理解(必ずしも地元原料使用ではなく地域伝承の加工技術・技法による製造を指す)を見直し、地元産地との多様な連携を模索し始めている。地元農業との強い連携を土台に成長を遂げた梅加工業者には、あらためてブランド維持のための企業姿勢が問われている。

(2)青梅消費と食の簡便化・外部化

 一般に消費者が購入した青梅は、生果のままではなく、必ず梅酒、梅ジュース、梅干し等に自家加工された後に消費される。
 しかし、家族形態や消費生活の変化にともなう食の簡便化志向や「外部化(外食に惣菜・調理食品を購入し家庭に持ち帰り消費する中食を加えたもの)」の進展により、これまでの青梅の消費トレンドも曲がり角を迎えている。
 つまり、青梅を梅酒等に自家加工し、子・孫世帯の消費までも支えてきた世代のリタイアにともない、青梅消費そのものの減退が予想されるからである。
 漬け物を例にあげれば、これまで各家庭の台所で独自に伝承されてきた〝ぬか床〟は徐々に姿を消し、スーパーでメーカー製造品を購入する消費者が確実に増えていることが象徴的である。
 産地サイドから、食農教育の一環として青梅の消費拡大に向けた宣伝・啓発に取り組むことは重要としても、食の簡便化・外部化の流れを押し留めることはそう簡単ではない。
 卸売市場仕向けの生果共販とブローカー機能をあわせ持つ加工事業の2つの受け皿を通して、梅生産農家の経営安定を図ってきたJAのマーケティング戦略にも一定の軌道修正が必要かもしれない。

(3)梅干し消費と消費者の「値頃感」

 一方、梅干し商品のマーケットにも変化が現れている。従来、和歌山県の梅加工業者は、量販・実需者向け商品には主として輸入原料を、通販・贈答品向け商品には地元産原料(紀州南高梅A級)を使用することが常であった。
 しかし、昨今の景気低迷にともなう通販・贈答品需要の停滞と小売店頭での低価格訴求の強まりによって、より「値頃感」のある国産(他県産)原料や安価で品質も向上した中国産原料の存在が、これまで和歌山県産原料が確保していたマーケットを縮小させているようである。
 例えば、百貨店などの店頭販売においても、「国産南高梅」という表示さえ可能であれば、原料産地が和歌山県であるか否かより、むしろ「値頃感」が優先される場合も多い。実際に「さつまの梅」などは新奇性のある地域ブランド商材として好評を博しているという。
 また、従来は贈答品仕向けの高級梅干しというニーズの対局にあり、お買い得感のある自家消費向けの商材であった「つぶれ梅」「無選別梅」などの商品が通販チャネルを中心に拡がりを見せ始めていることも見逃せない。
 メーカーサイドとしては、贈答品市場の閉塞感を前に新たな販路拡大を試みようとする苦渋の選択ではあろうが、結果的に小売末端での「紀州ブランド」の価値を損ないかねないのではとの危惧も拡がっている。

③産地関係者に求められる対応

(1)生産者 ─ 的確な現状認識をもって経営者感覚に磨きを

 一定の周期で回復傾向をみせるとはいえ、近年の青梅・白干梅価格の動向に「過剰問題」の影を見て取る生産者は少なくない。
 「作ったら売れた時代」という〝梅バブル〟はもはや終焉を迎えたことへの現状認識が必要である。
 ともに梅産業をめぐる運命共同体であるJAや地元メーカーとの連携を密にし、再生産価格や小売末端のニーズに即した「値頃感」のある価格を見据えながら、産地相場に折り合いをつけていく経営判断がより一層求められるであろう。
 また、さまざまな模索の結果として、現在の梅専作型経営にたどり着いた親世代はともかく、その後継者層では〝梅バブル〟期に就農したケースも多く、自らの経験に照らして経営改善を試みることはあっても、自家経営の内容をデータ等で相対化し他者と比較検討するなどの経験が乏しい。
 例えば、田辺市三栖地区での事例に学びながら、JA生産販売委員会と梅部会活動の活性化を図り、〝学び合う産地づくり〟を合い言葉として経営者感覚を磨くことが重要となろう。

(2)メーカー ─ 産地ブランドの信頼確保に向けた企業努力を

 消費者に自己の判断で適切な商品選択をさせるための方途として、食品表示制度は今後もより精度が要求されることは間違いない。
 その際、安全性を担保するための厳格性はもちろん必要であるが、消費者に誤解を与えないような「分かり易さ」「正確さ」を業界全体として(メーカーの組合組織への加入の有無に関わりなく)周知徹底することが重要である。
 また、贈答品市場における紀州ブランドの信頼性を確保するために、C級品・格外品やつぶれ梅の表示方法について厳選表示の観点から申し合わせを行うなどの取り組みも必要であろう。
 さらには環境保全や循環型社会の実現など、今世紀の社会的要請を踏まえて、加工・製造過程で発生する廃棄物(梅酢・調味液・種子など)を循環利用し、ゼロエミッション(廃棄物ゼロ化)により環境負荷を軽減させるなど、梅産業を基軸とする「地域産業複合体」の構成員ならではの企業メセナ(社会貢献)活動を業界全体として推し進めることができれば、消費者に対する産地のグレードをより一層引き上げることにも繋がると考えられる。

(3)行政 ─ コーディネート機能拡充と農山村型「地産地消」の推進を

 近年、梅産業に関わる生産者、JA、加工業者、関連業者等が一堂に会し、お互いの当面する利害を越えて地域の発展方向を真摯に話し合おうとする協議会の取り組みが緒についたところである。
 これら関係主体間の情報交換や協力・連携体制を構築するうえで、地元行政機関が調整役として果たした役割は大きいが、これらの協議会を実行力のある組織に育てていくためには、行政部局内の連携(農林・商工・教育など)も含めたさらなるコーディネート機能の拡充が求められる。
 また、農政の目玉施策として注目を集める「地産地消」を梅主産地である農山村地域で具体化するためには、農山村の魅力を発揮し都市住民をリピーターとして招き入れることも重要な取り組みとなる。
 現在、都市農村交流の一貫として観梅や梅もぎ体験などの取り組みが行われているが、例えば梅づくし料理の提供など宿泊・観光施設での地元産梅の用途拡大についても、食育・地産地消推進の観点から普及・啓発を図るなど行政支援を講じることが必要であろう。

○…付記 本稿は和歌山県戦略的研究開発プラン「産地の維持・発展を目指した合理的ウメ経営方式の確立(主査機関=和歌山県農業試験場、平成15~17年度)」の研究成果の一部を要約したものである。

● 筆者プロフィール ●
 藤田武弘(ふじた・たけひろ)1962年生まれ。博士(農学)、大阪府立大学大学院・生命環境科学研究科・専任講師。専門は農業経済学(農産物流通・市場論、地域農業論、食品産業論)。主な著作に『地場流通と卸売市場』(単著、農林統計協会)、『中国大都市にみる青果物供給システムの新展開』(編著、筑波書房)、『食と農の経済学』(編著、ミネルヴァ書房)、『地域産業複合体の形成と展開・ウメ産業をめぐる新たな動向』(編著、農林統計協会)。

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