JA紀南広報誌

2004年9月号p10-01

タイ農業も後継者不足の波  

協同組合省や米農家の現場を訪問「日本農業新聞」海外視察報告  

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 今年の日本農業新聞全国大会で表彰された全国15JAの役職員ら18人が7月5日から10日にかけてタイへの農業視察を実施、その一員としてJA紀南から参加した。現地では政府の農業に対する考え方や農家の実状を中心に研修、加えて観光等を通じタイの生活・文化などを肌で感じた。そのレポートを報告する。  (情報管理課・竹内一寿)

 
面積は日本の1・4倍米、ゴム輸出は世界一

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 タイの国土面積は日本の1・4倍、人口は6200万人。そのうち首都バンコクは約600万人(戸籍未登録者を含めると1000万人と言われる)の大都会。その中にはミャンマーやラオスなど隣接国からの出稼ぎ労働者も多い。
 輸出産業は、米、ゴム、スズが世界一で、ほかに鶏肉、エビ、キャッサバ、タイシルクが有名だ。
 気候は常夏で年中暑いが、7月から10月は雨季のため、今回の視察も非常に蒸し暑く、時折激しいスコールが降った。また、地震、台風のない国でもある。
 通貨はバーツで、1バーツは約3円。例えばコーラ1本およそ10
バーツ(30円)、バス料金3・5バーツ(10円)、屋台での1食30バーツ(90円)と物価は日本よりもかなり安い。ただし、電化製品や車などの嗜好品には多くの税金がかけられているためかなり高い。安い車でも200万円以上するという。
 このような国風で、農業分野ではどのような動き、政策があるのか、農家はどんな生活をしているのかとの興味を抱き視察に臨んだ。

後継者不足など問題多数タイの協同組合省を訪問

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 初日の視察先は、国立カセサート農業大学内のタイ協同組合省。米生産向上局のチャン・タイヤ局長からタイの農業の説明を受けた。
 タイ農業の主である米の品種は約60~70種類。ジャポニカ米もあるが、タイ滞在の日本人用にわずかに生産しているのみだ。米生産量の需要の内訳は、全体の半分が国内消費、4分の1は海外輸出、残りを政府米としてストックする。
 1980年代後半以降、急速な工業化で農業の地位が低下しているため、日本と同様に農家の後継者不足や、国民の米の消費量減少が深刻な問題となっている。
 チャン局長は「農業は国の重要産業、とりわけ米は政府も重要性を認識している」と強調していた。
 政府の農政の方針は今の生産量を適正とし現状維持したいとのこと。今後は乾いた土地でもできる米の新品種開発や、無農薬栽培の技術確立も求めたいと話していた。
 また、問題となっている後継者不足に対しては後継者確保のための農業分野への具体的な支援策の実施、米の消費対策には国民キャンペーンやPRを積極的に図っていきたいとのことだった。
           

カンチャナブリで農家取材年間の農業収入は約9万円

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 映画「戦場に架ける橋」で有名なタイ西部のカンチャナブリという街の近郊をバスで走っていると、水田で代掻き中の農家があり飛び込みで取材をすることができた。
 その農家は13ライ(約1・12㌶)の水田で2期作をしている。「チャイナート1号」という品種で、代掻き後、もみを直播きし4カ月後に収穫する。肥料を2回、それにコウモリの糞も蒔くらしい。農薬は一切使わないと言い、水田にはジャンボタニシがたくさん発生していた。
 ガイドが「ジャンボタニシをとらないのか」と聞くと「私は(ジャンボタニシを)食べないから放っておく」との返事で、一同あっけにとられた。あまり深刻な被害とは考えていないようだ。
 米のほか、フルーツも作っているようだが、年間の農業収入はわずか2万8千バーツ(約9万円)。この農家の子どもたちは公務員で「将来も、儲からない農業をさせたくない」と言っていた。
 視察団の一人が「タイの農業のためにがんばってください」と激励すると、タイ語で「疲れるからヤダ!」。農業の将来などあまり真剣に考えていないように見えた。
 タイの農業全般を振り返ると、政府は農業を国の重要産業と位置づけ、後継者対策や米消費拡大に積極的である一方、現場の農家にそのことがあまり伝わっておらず、意識にズレがあると思った。機械などの設備も十分ではなかった。
 その背景には、農業は儲からないことがあるのだろうが、現地ガイドは「農家には現金収入はないが、消費することもない。税金も免除されている」と言う。米や野菜、果物は豊富で、確かに食べ物は自給自足によって不自由なく生活できると感じた。

活気あふれる「オトコー市場」タイ米は1㌔ 30バーツで販売

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 農産物はいろんなところで販売されていたが、視察した「オトコー市場」には、ざっと200を越す店がズラリと並ぶ。中でも目を引いたのは、マンゴスチン、ドリアン、グァバ、ミカンなどたくさんのフルーツだ。
 果物の王様と称される「ドリアン」は、1個300バーツ。その場で初めて試食してみたが、噂に聞いていたほどの臭みはなく、甘くてとろける口当たりは絶品。地元で採れる南国系のものは独特な香りがするが、日本では決して味わえない現地ならではの味覚を経験できた。
 ほかに、リンゴや桃、チェリー、ブドウなどがあったが、味はもうひとつ。これらは近隣諸国から輸入しているとのことだった。
 タイ米は、1キロあたり約30バーツで販売されていた。ジャポニカ米は少し高く50バーツだったが、それでも安い。米農家に意気込みが感じられない理由も分かる気がした。
 暑さで食べ物が傷まないのかということと、衛生面で大丈夫かなと思うこともあったが、タイ人はそんなことはあまり気にしない。店員は物が売れようが売れまいが、とにかく皆んな笑顔。さすが〝微笑みの国〟と言われるだけあり、市場内は活気に満ちていた。

気にしない穏やかな人柄最も大切にするのは家族

 タイの人々の人柄を表す言葉に「マイペイライ」がある。気にしないという意味だ。
 時刻表がなく、いつ来るか分からないバスをじっと待ち続ける学生たち、大渋滞で急な割り込みでもクラクションを鳴らさないドライバー。日本人のようにせっかちではなく、とにかく気が穏やかだ。
 仕事が8時開始であるにもかかわらず、高速道路が渋滞だと堂々と1時間遅刻するサラリーマン。ガイドによれば、遅れた理由も「車が混んでいたから」で通用する。
 そんなタイの人々が最も大切にしているのは家族だ。仕事中でも、子どもを学校に迎えに外出したり、週末は必ず家族総出で外食する。親の面倒は子どもが見る習慣が根付いている。年金制度もなく、子どもが働いて親を養うという。
 今回の視察では、タイの農業や生活、文化を注視するよう心がけたが、農業面では日本の方が遥かに進んでいるように思った。
 ただ、物があふれ、不自由ない生活でも凶悪犯罪などが頻繁に起こる日本とは違い、他人を、家族を大切にする心豊かな人間本来の生き方を、タイの人々に教えられた気がする。良い意味での「マイペイライ」を大切にしたいと思ったのが帰国後の率直な感想だった。

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